救われないもの
神は救う命と救わない命を選別する
平らな地面からこぼれ落ちたその命は
誰の目にも映らず
手を差し伸べるものもなく
どこまでもどこまでも堕ちてゆく
堕ちてゆくいのちは
眼を剥き
声の限りで叫びながら
救いを求め
神に縋りひとに縋る
宇宙の底の引力に引かれ
加速度をつけて堕ちてゆくそのいのちは
天を呪い 母を呪い
この世に生を受けたことを心から呪った
さようなら母さん
さようなら神様
もう二度と
もう永遠に生まれてきません
さようなら
さようなら
ヒトダスケ
君はほんとうにやさしいね
いつもいつもぼくにあたたかい言葉をかけてくれて
でもね
その眼に浮かぶ嘲りの色は
やっぱりぼくを傷つけるんだ
あなたのそのナイフのような慈悲の心に
いつもぼくは切り刻まれているよ
君はいいことをしていると思い
気持ちいいだろうね
でもね
きっと君もその心に
悔しさと劣等感を隠し持っている
ひとはひとを救うことなんかできない
ひとにできるのは
躓いた人間をもっと貶めることだけだ
そしてまた明日も
君はぼくを切り刻み
君はその心を満たして深く眠る
ぼくという種子
ぼくというなにかの種子がありました
冬の終わりでしょうか
誰かがぼくを土に蒔きました
同じく
多くの種子が土に蒔かれました
春が来ました
多くの仲間が芽を出しました
ぼくは土の下で硬い種子でした
夏が来ました
花を咲かせる仲間たち
ぼくは硬い種子のまま
秋が来ました
実が成る仲間と、遅咲きの仲間
ぼくはずっと種子のまま
冬が来ました
大きく実り、四季を終えた仲間たち
ぼくは土の下で死んでゆくのでした
よかったね
みんなみんなよかったね
僕がまだ人間だったころ
僕がまだ人間だったころ
朝目覚めると明るい陽を浴びて
朝ごはんの匂いが楽しみだった
僕がまだ人間だったころ
おかあさんがいて
おとうさんがいて
おねえちゃんがいて
おばあちゃんがいて
僕がまだ人間だったころ
庭に花が咲いていて
赤い花、青い花、黄色い花
世界には綺麗な色があった
僕がまだ人間だったころ
外の空気は澄んでいて
草木は瑞々しい風を送ってくれた
そして
僕がまだ人間だったころの
孤独は誰にも届かない
僕がまだ人間だったころ
僕がまだ人間だったころ
すれ違い
いつもいつも
君は言葉を尽くして
僕を励ましてくれるね
でもね
君の言葉は
僕の耳の穴を通るには大きすぎるんだ
僕も
耳の穴を精一杯広げて
君の言葉を聞くのだけれど
君の言葉は大きすぎて
僕の耳の穴を通らないんだよ
君が経てきた広い大きな人生と
僕の辿ってきた狭くチンケな人生は
見てきた世界
聞いてきた音
何もかもスケールが違うよね
だから
君の言葉は
僕の耳元を
こぼれ落ちてゆく
ごめんなさい